山名幼稚園の子どもたちは、3年間
じっくりと気づき・考える経験をつみます。
≫Story1 感謝の心 ≫Story2 育ちあう心
≫Story3 素直な心 ≫Story4 やさしい心
「しつれいします。」
1月も終わりの頃、年長さんのグループが職員室にやってきました。手には太鼓のバチがにぎられています。子どもたちが声をそろえて言いました。
「バチを貸してくれてありがとうございました。」
副園長先生は、なぜかそのバチを受け取ろうとしません。子どもたちは、なぜだろうと不思議顔です。副園長先生が口を開きます。
「バチを貸してくれたことだけかな?」
子どもたちの頭の中で、いろいろと考えをめぐらせているようですがわかりません。
「バチだけじゃないよね、太鼓さんにもありがとう、先生方にもありがとう、他には、どんなことがあるかな?」
副園長先生は、子どもたちを待ちます。
「教えてくれてありがとう」「ほめてくれてありがとう」・・・子どもたちからいろいろな「ありがとう」が出ます。
「そうだね。先生からも、みんな、がんばってくれてありがとう」
子どもたちは気恥ずかしそうに、ほっとした様子で職員室を出ていきました。
子どもたちも、先生も一緒に頑張った鼓笛練習の日々の最後の1ページです。
(職員室で)
絵本の読み聞かせの後、先生が子どもたちに言いました。
「今度は、先生になってみんなに読んでくれる人いますか?」
はい!はい!はい!はい!そこで、みんなで順番に先生になることに決めました。ゆっくり、ゆっくり、一人一人が最後まで一生懸命に読みます。
5回目、6回目、7回目・・・それをずっと見ていた満3歳児ひよこ組さんのA君が
「ぼくもやりたい!」と手をあげました。
椅子に座っても、まだ足もつかないような小さな体。本をみんなの方に向けるのもひと苦労です。
そんな様子を見て、そっと手を添えた優しい年長さん。手伝って一緒に読んでくれました。
すっかり絵本のストーリーを覚えてしまった、ひよこ組のA君。とうとう最後は、一人で読み聞かせをしてくれました。
それを見ていた先生と子どもたちは、思わず顔を見合わせてにっこりしました。
(預かり保育「にこにこ」で)
『わたくしは、かみさまのこどもです。
わたくしは、おやがみさまのおやごころで、
まいにちまいにち たのしく くらしています。
ありがとうございます。
きょうもなかよくあそびます。
どうぞ、けががありませんように、
おまもりください。』
朝の会や、神殿参拝の時に、この「おちかいのことば」を子どもたちは全員で言います。何十年も伝統的に続けている、日々の感謝と約束とお願いの言葉です。
ある時、年長さんのA君が園で骨折をしてしまいました。その後、お見舞いに行った先生がお母さんに早速お詫びをすると、お母さんが子どもの話をちょっと聞いて欲しいと促すようにA君に会わせてくれました。
「先生、ごめんなさい。」とA君。
「どうして?」
「ぼくは、ふざけていて「おちかいのことば」を言っていなかったんだ」
お母さんに伺うと、ふざけていたことを自分で気づき反省し、これからはちゃんとしたいという考えになっている、だからそのまま子どもの気持ちを受け取ってほしいと。
その後、元気になって園に戻ってきたA君、手を合わせて誰よりもしっかりとおちかいの言葉を言うようになりました。
そして先生方も、子どもの素直な心に、頭が下がる思いになりました。
(年長クラスで)
年長さんのクラスで1人1つ育てているヒヤシンス。固く閉ざした球根から根が伸び、緑の芽が顔を出し、きれいな花が咲いて喜んでいる子が日に日に増える中、咲く前に枯れてしまったAちゃんのヒヤシンス。
ヒヤシンスを見つめ大粒の涙をぽろぽろ流していました。
「Aちゃん、どうしたの?」先生が声をかけます。
「私のお花枯れちゃったの・・なんでかなあ・・」寂しそうにいうAちゃん。
先生は、こんな言葉をかけました。
「お花はね、「きれいに咲いてね、元気になあれ!」って話しかけると答えてくれるんだよ」
Aちゃんは、顔をあげて
「・・そうなの?わかった、毎日話しかけるね!」
その日から毎日、ヒヤシンスに優しい言葉をかけたり、じっと見つめたりしていました。
Aちゃんが熱を出してお休みしてしまった日も、Aちゃんの妹が「先生、お姉ちゃんがヒヤシンスにお話ししてあげてね、お水かえてあげてねって言ってたよ」という伝言まで。
数日後、枯れてしまった花の横から新しい芽が!その芽はどんどん大きくなり、優しい桃色の花になりました。毎日Aちゃんの様子を見ていたクラスの子も、
「ヒヤシンスすごくきれい!Aちゃんが優しい気持ちだから咲いたんだね!」
「Aちゃんは、2つもお花が咲いていいなあ、きれいなピンクだね!」
Aちゃんも、クラスのみんなも、先生も、とてもあたたかい気持ちになりました。
(年長クラスで)